長期主義的AIガバナンスの展望:基礎的な概要
目的:長期主義的なAIガバナンスで何が起こっているのか、基本的な概要を説明する。
対象者:長期主義的なAIガバナンスにあまり馴染みがなく、より理解を深めたい人。すでにこの分野に精通している人の参考にはならないかと思う。追記:すでにこの分野にかなり精通している人の中にも、これが役に立ったと言う人もいる。
この投稿では、長期主義的なAIガバナンスで起きているさまざまな種類の活動の概要を説明する。それぞれの種類の活動について、それを説明し、例を挙げ、それがどのようにポジティブなインパクトを与えることができるかについていくつかのストーリーを描き、私が知っている現在その仕事に取り組んでいるアクターをリストアップする。
まず、いくつかの定義について。
注目すべきは、長期的視点に立ったAIガバナンスの分野は非常に小さいということだ。超長期的なインパクトへの懸念に立脚しているAIガバナンスの研究者は、60人程度と推測される。
現在行われている研究は、大まかに言えば基礎的な研究と応用的研究の間の連続した分布のどこかに分類できると考えるのがわかりやすい。基礎的な研究としては、長期主義的なAIガバナンスのための優れた高位の目標を定めることを目的とした戦略研究やその高位の目標を達成するための計画を定めることを目的とした戦術研究といったものがある。応用面では、このような研究を具体的な政策に落とし込む政策策定、政策の実施を提言する活動、そして実際に(公務員などによって)政策を実施する活動がある。
また、フィールドビルディングといった仕事もある。(この仕事は先ほどの分布の中の明確な分類には当てはまらない。)この仕事は、問題に直接貢献するのではなく、その問題に対して価値ある仕事をしている人たちのためのフィールドを構築することを目的としている。

もちろん、この分類は単純化したものであり、すべての研究がここで紹介した1つのカテゴリーにきちんと収まるわけではない。
また、一般的には、研究の知見が基礎的な研究から応用的な研究へと順番に影響していくと思うかもしれないが、実際はそれぞれの研究が現実的な政策的としての関心ごと(例:その研究自体が、政治的に実現可能な政策提言につながる可能性がどの程度あるのか)に配慮していることも重要なので、一概にそうとは言えない。
次はそれぞれの研究内容についてより詳しく説明する。
長期主義的なAI戦略研究の最終的な目的は、長期主義的な視点から、私たちが追求することで高度なAIが最終的に良い結果をもたらす確率を明らかに高めるような高位の目標を特定することだ(Muehlhauserに倣って、この目的を「戦略の明確化」と称することもある)。
この研究自体も、ターゲットされた(目的を絞った)戦略研究と探究的な戦略研究との間のゆるやかな分布のどこかに分類することができる。
一般的に、戦略研究(特に探索的戦略研究)は、広範囲を対象とする研究と混同されがちである。しかし、実際には、上記の例の多くが示すように、戦略研究は狭い範囲を対象とすることもでき、かなり狭い問いに答えることもできるのである。広範な質問と狭い範囲の質問の例:
実際、特に若手研究者にとっては、スコープを絞った狭い範囲の質問を選ぶ方がより扱いやすい傾向があるので、そうすることが良い場合が多いと思う。
Luke Muehlhauserは、このような研究に挑戦したい人に向けて、いくつか推奨事項を述べている:この投稿のポイント4を参照。また、オープン・リサーチ・クエスチョンの例については、こちらの投稿を参照。
以下の機関の人々:FHI, GovAI, CSER, DeepMind, OpenAI, GCRI, CLR, Rethink Priorities, OpenPhil, CSET,及び独立した学者たち。
長期主義的なAIの戦術研究は、最終的には(戦略研究が優先すべきとした)高位の目標を達成するための計画を特定することを目的としている。その性質上、より狭い範囲を対象とする研究になる傾向がある。
なお、優先すべき目標が明確に特定されていない場合でも、自分自身の学習のため、キャリア資本のため、学問分野の構築のためなどの理由で戦術研究を行うことができるということは注目に値するだろう。
以下の機関の人々:FHI, GovAI, CSER, DeepMind, OpenAI, GCRI, CSET, Rethink Priorities, Institute for Law & AI, 及び独立した学者たち。
戦略研究は、高位の目標を導き出す。戦術研究は、それらの目標を達成するための計画を立てる。政策立案活動では、これらの計画を政策提言に落とし込み、政策立案者に提供する。そのためには、例えば、具体的にどのような提言をするか、(正式な政策と提言の両方において)どのような言葉を使うか、その他実施の成功確率に影響を与えるコンテクスト特有の特徴を見極める必要がある。
政策アドボカシー活動とは、政策が実施されるよう提唱する活動である。例えば、「誰に対して政策提言をするのか?」、「どのタイミングで政策提言をするのか?」、そして「その政策提言を誰がするのか?」に関して最適解を見極めることである。
政策実施とは、公務員や企業などが実際に政策を実施する作業である。
政府政策(政府や政府間組織によって制定されることを意図した政策)と企業政策(企業によって採用されることを意図した政策)を区別することには価値がある。長期主義的なAIガバナンスに取り組む人々の中には、企業政策(特にAI開発者のための政策)の改善に重点を置く人もいれば、関連する政府の政策の改善に重点を置く人もいる。
政策立案を成功させるためには、実施の詳細が極めて重要であるという認識がすべての政策活動に共通する動機だ。例えば、政府の規制に微かな抜け穴があると、その規制が無意味になってしまう。
研究と比較すると、この種の仕事は一人で考えることが比較的少なく、会話や情報収集(例:ある政策に対して誰が権限を持っているか、彼らが何を気にしているか、他のプレイヤーは政策に何を求めているかを知るために会議を開く)、そして調整(例:ある政策を支持するようにアクターのグループに対してどう働きかければいいかを考え、それを実現する)がより多い傾向がある。
先ほど述べたように、政策の洞察は時に「逆流」する。例えば、政策立案は、アドボカシーによって自分の知識(と政策の展望)がどのように変化するかに基づき、反復的に行われるかもしれない。
これらのアイデアは、より対象を絞ったもの(例:AIをNC3に統合しない)から、より一般的なもの(発生するであろう幅広い種類の問題に対処するための汎用的能力を備えるという意味で。例:上述の他のほとんどの問題など)まで、さまざまだ。私は今日の私たちの政策立案、アドボカシー、実施はより一般的なアイデアに集中すべきだと思う。なぜなら、今後AIがどのように展開するのかというのが我々にとって不透明だからである(一方で、明らかに優れた特定のアイデアが生じた場合には、それを推進することも必要だ)。
この仕事は長期主義的なAIガバナンスにおいて価値ある仕事をしている人々のフィールドやコミュニティを成長させることを明確な目的としている。この仕事は、(1)新しい人々を引き入れることと、(2)この分野をより効果的にすることの両方を含んでいると考えることができる。
1. 新しい人を引き入れるために作るもの:
GovAI, OpenPhil, SERI, CERI, CHERI, EA Cambridgeなどである。より広い視野で見れば、特定の課題領域に限らない広範なEAムーブメントのコミュニティビルディングも同様だ。これは、この投稿で議論されている仕事の中で、最も探究されていない種類のものだ。
私は、長期主義的なAIガバナンスの展望の一つの考え方を提示しただけである。もちろんそのほかの目的に対して役に立つ別の考え方もある。例えば、以下のような様々な種類の介入に基づいて、展望を区分することができる。
あるいは、地理的なハブによって区分することもできる。(ただし、すべての組織が地理的なハブに属しているわけではない)。
あるいは、さまざまな「勝利の理論」、つまり、人類が高度なAIが存在する世界への移行をどのようにうまく乗り切るかについての複数の完結した物語に基づいて、展望を区分することもできる。この他にも色々言いたいことはあるのだが、この記事の目的は現在行われている活動の種類を簡潔に概観することである。
謝辞:この記事は、私独自の展望の総括ですが、Allan Dafoe, Luke Muehlhauser*, *Convergence AnalysisによるEAフォーラムの投稿に触発され、さらに直接引用したものです。また、Jess Whittlestoneとの有意義な議論、Matthijs Maas、Yun Gu、Konstantin Pilz、Caroline Baumöhl、特にSERIの査読者の、草稿に対するフィードバックに感謝しています。
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